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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4428号 判決

原告

山本雅道

被告

藤田観光株式会社

主文

一  被告は、原告に対し七一万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し一九〇万九七〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件交通事故の発生

(一) 日時 昭和五七年五月五日午後四時五〇分

(二) 場所 神奈川県足柄上郡谷ケ九一八、東名高速道路

(三) 加害車両 品川二二か二〇一六(観光バス)

運転者 高橋芳男

(四) 被害車両 川崎五五つ三五七九

運転者 原告

(五) 事故態様 渋滞のため停車中の被害車両に加害車両が追突した。

2  責任

被告は、加害車両の保有者であり、また、本件事故は、加害車両の運転者高橋芳男が被告の業務に従事中その前方不注視の過失により発生したものであつて、被告は、右高橋芳男の使用者である。

よつて、被告は、自賠法第三条、民法第七一五条により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

原告は、本件事故により頸部捻挫、右膝部打撲の傷害を負い、昭和五七年五月六日から同年七月六日まで加療を要し、次のような損害を被つた。

(一) 休業損害 一三七万円

原告は、京浜モデルの名称でテレビ、ラジオ、ステレオ等の電器製品及び自動車その他のプラスチツク部品の試作品の製造を業とする者であるか、本件事故による傷害により昭和五七年五月六日から同年六月末日まで休業を余儀なくされ、当時受注していた製品の製造をすべて外注せざるを得なくなり、その間一三七万円の損害を被つた。

(二) 慰籍料 三〇万円

(三) 車両代車料 一四万四〇〇〇円

(四) 積荷動産損料 九万五七〇〇円

(1) ボストンバツク 二万円

(2) コート 三万円

(3) 無線機 三万五〇〇〇円

(4) 釣竿三本 一万〇七〇〇円

4  結論

よつて、原告は、被告に対し以上の損害合計一九〇万九七〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五七年五月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、被告が本件加害車両の保有者として自賠法第三条による損害賠償責任があることは認める。

3  同3の損害については不知ないし争う。

三  被告の抗弁

1  原告と被告は、昭和五七年五月二四日物損について次のような和解をした。

(一) 被告は、原告に対し原告の所有する本件被害車両と同一車種の新車をオプシヨン部品を含め賠償する。

(二) 原告所有の本件被害車両は被告の所有とする。

(三) 原告と横浜日産モーター株式会社間の本件被害車両につき存在する債務は、原告が履行し、被告は右債務を負担しない。

(四) 被告は、原告に対し事故当日の帰宅タクシー代三万円を支払う。

(五) 原告は、被告に対し新車登録費用のうち自動車税二万八七五〇円、自賠責保険料三万三七五〇円、東名高速道路料金三九〇〇円を支払う。

(六) 原告は、本件事故による物損につきその余の請求を放棄する。

2  よつて、原告は被告に対し積荷動産損料や車両代車料の支払を請求することができない。

四  抗弁に対する認否

原告は、被告主張の日時に被告との間でその主張(一)ないし(五)に記載の内容の和解をしたことは認めるが、右和解において積荷動産損料や代車料の損害賠償請求を放棄したことはない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(本件交通事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  同2のうち、被告が本件加害車両の保有者として自賠法第三条による損害賠償責任があることは被告において認めるところであり、また、本件事故は、加害車両の運転者高橋芳男がその使用者である被告の業務に従事中前方不注視の過失により発生したものであることは被告において明らかに争わないから、被告は、民法第七一五条により原告が被つたすべての損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで、原告の傷害の部位、程度、治療の経過等について判断するに、成立に争いない甲第一号証、原本の存在と成立に争いない乙第二号証の各記載に原告本人尋問の結果を総合すると、原告としては本件事故当日の昭和五七年五月五日は身体に特段痛みなどを感じなかつたが、翌五月六日になつて頸部に痛み等を感じたため川崎市立三田病院で診察を受けたこと、原告は、同病院において、頸部痛、右膝関節の痛み等を訴えたところ、頸部捻挫、右膝部打撲と診断されたが、レントゲン所見では頸部、椎間に異常、変化はなく、膝部に湿布、包帯を施し、内服薬を貰つたにすぎなかつたこと、しかし、原告としては、その後も頸部痛が完全に消失せず、上肢にしびれ感などを覚えたので、同年六月一日同病院に通院したところ、ポリネツクを装着して安静にするよう指示され、七日分程度の内服薬を貰つたこと、原告は、同年七月六日三度び同病院に通院し、頭痛、頸部痛を訴えたが、七日分の内服薬を貰つたほか、特段の治療を受けたこともなく、その後は病院等に通院していないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  進んで、原告の被つた損害について判断する。

1  逸失利益 四二万円

原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第二ないし第四号証、同第五号証の一、二、同第六号証の一ないし六の各記載及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時京浜モデルの名称でテレビ、ラジオ、ステレオ等の電器製品及び自動車のプラスチツク部品の試作品を製造することを業としており(その後会社組織に変更)、従業員二人を雇つていたが、時には頸部に痛み覚え、集中力、思考力が減退することもあり、デザイナーが作製した試作品の細かな図面を解読したり、細かな部品の組み立てに従事する従業員に対し十分に行き届いた作業の指示を与えることもできなくなつて、辰栄樹脂工業株式会社から注文を受けた製品を納期までに製作して納品することができなくなつたこと、そこで、原告は、南デザイン巧芸や西川典雅に対し注文品の製作を外注して一二二万円を支払つたほか、熟練工一名を五日間雇つて一五万円を支払い、注文を受けた製品を完成して辰栄樹脂工業株式会社に納品したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は、本件事故により事故前と同様な状態で稼働することができなくなつたため、注文品の製作を外注したり一時的に熟練工を雇つたりして一三七万円を支出したものということができるが、原告本人尋問の結果によれば、注文品の製作を外注したことにより製作経費がある程度軽減したことが認められるほか、原告の前記傷害の部位、程度及び通院日数、治療の内容に鑑みれば、原告の前記の如き仕事の特殊性を考慮しても、原告が昭和五七年五月六日から同年六月末日まで全く稼働することができなかつたことは推認できないから、右のような諸般の事情に徴し、本件事故と相当因果関係にある原告の逸失利益の損害としては右支出金額のほぼ三分の一にあたる四二万円をもつて相当と判断する。

2  慰籍料 一五万円

前記認定の原告の傷害の部位、程度及び通院日数、治療の経過など諸般の事情に鑑みれば、原告の慰籍料としては一五万円をもつて相当と認める。

3  車両代車料 一四万四〇〇〇円

原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の一、二によれば、原告は、本件事故により被害車両が大破して使用不能となつたため、昭和五七年五月六日から同月二四日まで株式会社日産観光サービスからセドリツクを借り受けて使用し、その使用料として一四万四〇〇〇円を支出したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

4  積荷動産損料

原告は、被害車両に積載していたボストンバツク、コート、無線機、釣り竿三本を本件事故により破損し九万五七〇〇円の損害を被つたと主張するが、証人川上保の証言によれば、被告側としては、積荷として折れた釣り竿とジヤンパーしか確認しておらず、しかも、原告本人尋問の結果や原告提出のその他の証拠によつてもその損害額を確定することができないから、これを損害として計上することはできない。

五  そこで、被告の和解成立の抗弁について判断する。

被告は、昭和五七年五月二四日に原、被告間に成立した和解において、原告は車両代車料を含む物損についてはその請求を放棄したものである旨主張するが、乙第二号証の示談書にはその旨が明記されていないほか、証人川上保の証言によつても昭和五七年五月二四日の和解の際原告が使用した代車料についてどのように処理すべきかについて十分な協議がされたものとは認められず、また、原告が被告に対し代車料の請求を放棄しなければならないような納得しうべき理由がみあたらず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はないから、被告の右抗弁は採用の限りではない。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し以上の損害合計七一万四〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五七年五月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを正当として認容するが、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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